6月の蛍―宗久シリーズ1―
思想
握り締めた咲子さんの手。


流れ込んでくる、悲痛な想い。





冷たく、閉ざされた……叶わなかった想い。







自分を責め続け、愛しい人への想いを捨てきれず、その罪悪感の重量に耐え切れず、己の……命までも。







切なさ、やるせなさ、深い悲しみ、後悔。








それは現実の記憶となり、僕の胸中に吹き荒れる。





強すぎる想いは満たされない悲痛と共に、まるでコップから溢れ出す水の様に、ひしひしと僕の思考を濡らしていく。







うつむく咲子さんの儚い気配、それを強調する、光る鼈甲の簪。







全ては、ここから始まった悲劇。







ただ、一つのものを守ろうとした健気さが、逆に咲子さんの首を絞める結果になったのだ。










僕の手を握り返す、咲子さんの手。




こんな細い手で、彼女は懸命に想いを抱え、守り、そして今……消えかけた記憶の火をその手に再び掴もうと、ここを訪れて来たのだろう。






「私………」







顔を上げた咲子さんの、悲愴な表情。



その瞳から涙が静かに、光をはらんで落ちる。



.
< 78 / 93 >

この作品をシェア

pagetop