6月の蛍―宗久シリーズ1―
「私は………そうして………死んだのですね…」


「………ええ」







彼女は、自分が亡くなっている事にすら、気付いてはいなかった。




辛すぎる現実から全てを消去する事で、自分の魂を守っていたに違いない。




誰かを恨む事もせず、長い年月ただそうして……一人で時を過ごして。









行くべき場所さえわからないままで。









それがあまりにも強かった為、父は彼女をすぐには救えなかった。




だから、僕に託した。





そして、あの人の願いも……。









「………私は……ただ苦しくて、逃げたのです。怖くて……それしか無くて…」






切々と綴られる、溢れてくる、咲子さんの真実。




「あの人は、私を恨んでいるのでしょうか……やはり……私の罪は消えない……」






……………悲しすぎる。






「それは、違います」




僕は、咲子さんの手を握り締めた。


伝えなければ。



あの人の真実も。





咲子さんと同じ様に苦しんできた、頑なに幸せを拒んできた、あの人の真摯な心を。




それが、僕の役目だ。

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