6月の蛍―宗久シリーズ1―
「あの人は、あなたを恨んで等いませんでしたよ」

「…………え」







僕は、知っている。




あの人の苦しみも、後悔も。



そして、どれほど咲子さんを愛していたのかも。











「あなたが居なくなった後、帰宅したあの人は、一晩中あなたを捜したんです」





咲子さんの表情が、驚愕に満ちる。




雪の中、身を切る様な寒さの中、ただ……咲子さんを捜し、一晩中…。








「あの人は、姑の話を全て信じてはいなかった。何か苦しみがあったのかもしれないと、あなたの口から真実を聞く為に捜し…そうして………」





明け方、神社の石段の下……冷たくなった妻の姿を見つけたのだ。










身体を隠す程に積もった雪は、どれ程の時間、そこに倒れていたのかを物語っていた。








誰にも気付かれる事も無く…静かに……冷たくなる死への感覚を……たった一人きりで背負って…。





あの人は、体温を失った妻の身体を抱きしめ、泣いた。



泣いて泣いて……それからずっと自分を責め続けている。





愛する者を守れなかった、自分の未熟さを恨んで。
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