6月の蛍―宗久シリーズ1―
僕が知るあの人は、悲しそうに雪景色を眺める人だ。



静かに空から降り落ちる雪を縁側から見つめる視線は、雪を通して遠くへと向いていた。




その瞳があまりにも切なくて、声を掛けるのすらためらう程だった。









『雪が嫌いなの?』






そう問い掛けた幼い僕に、あの人は笑いかけ、膝に乗せてくれた。







『雪は、悲しい記憶を思い出させるんだ』








そう呟くあの人の表情を、声を、僕は忘れられない。










「あの人は、今でもあなたを愛していますよ」








咲子さんの手に、力が入る。




僕を見上げる瞳には、困惑の色が浮かんでいた。



その色は透明な雫となり、再び咲子さんの白い頬を濡らす。








「私…もう…全てを失ってしまったものと………」






そのまま泣き崩れる咲子さんの肩を見つめる。





咲子さんの手、その手に、温もりが戻っていく。




それは、咲子さんの心が、魂に吹き込まれていく儀式の様に感じられた。







真実は、切ない。


そして運命は、あまりにも悪戯だ。




.
< 81 / 93 >

この作品をシェア

pagetop