6月の蛍―宗久シリーズ1―
虹蛍
月の光が、縁側にまで差し込んできていた。





少し高い段差を降り、僕は咲子さんを振り返る。



差し延べた僕の手に彼女は微笑み、そうして白い手を重ねてくる。





「ああ……綺麗な月」






庭に立ち、二人で夜空を見上げた。





藍色の空、うっすらと、細くたなびく様に流れる雲。

その雲の途切れた合間から、穏やかに庭を照らす透明な光に、僕の姿が湿り気の残る地面に影となり伸びる。



ささやかな月の自己主張だろうか。







「月は、女性があまり見てはならないものだと言います」




咲子さんが、ぽつりと呟く。



月を見上げるその姿は、月が見せている幻影の様だ。




「なぜですか?」

「昔、売られた女性は遊女として労働を強いられました。その女性達は毎晩月を見上げ、己の不幸を嘆いたと言います。その念が、月に宿っていると」




語る咲子さんのその横顔は、淋しげに見える。











月を見上げ、嘆き哀しんだであろう遊女達。



故郷を離れ、女性であるが為の、過酷な仕打ちとも言える労働……。







重ね、見ているのだろうか…自分と…。
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