6月の蛍―宗久シリーズ1―
紫陽花が、揺れている。




花びらに乗る雨の名残の水滴は、月の光を吸い輝く。

淡い色合いは、まるで雨上がりの虹の様だ。




その花びらが、微かな風に揺れて水滴を弾く。




まるで、誘う様に……。











ああ、そうだな……。


これも縁か。





最後まで、付き合うか?










紫陽花の花へと、手を伸ばした。


そっと、柔らかな花びらをなぞる。



応えるかの様に、枝が揺れた。






答えは、はらりと手の平に舞い落ちた……虹色の………。











「咲子さん」





呼び掛けに、咲子さんは静かに振り向く。




光る、鼈甲の簪。




愛しいものも、苦しいものも、全て吸い込んだ簪……。










「あなたはもう、全てを思い出せましたね」

「…………ええ」

「あの人の、温もりも」





咲子さんは、ゆったりとうなづいた。



その瞳に、強い意思を確認する。





「では、あの人の名前を呼んで下さい。瞳を閉じて、そして……想いも」




愛しさを、身近に手繰り寄せて。




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