6月の蛍―宗久シリーズ1―
僕は、咲子さんの手を取る。


包む様に、握り締める。




瞳を閉じた咲子さんの身体が、少しづつ少しづつ、月の光に透けていく。









……時間だ。




待っている。


あの人が、待っている。







「あの人の……名前は……」






咲子さんの桜色の唇が、愛しいその名をかたどる。



ゆっくりと、ゆっくりと……。









その細い声に連動し、握り締めた手に温もりが灯り始めた。







そっと、手を離す。






そこからふわりと、小さな淡い光の粒が空間へと放たれる。





「まぁ……蛍…」








僕と咲子さんの手から生まれた一匹の蛍は、放たれた喜びに酔いしれているのか、なめらかな光の曲線を闇夜に引きながら舞う。



淡い、淡い、虹色の光。









これは、咲子さんの想いだ。



長い時、魂の奥底に封印していた、咲子さんの心。




導くべき、光。







咲子さん、あなたは大丈夫。


必ず、あの人に会えます。



もう迷わずに、ただ想いだけを抱いて。



あの人に、届いていますから。



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