6月の蛍―宗久シリーズ1―
ふわりふわりと、咲子さんを守っているのか、彼女の周りを舞う蛍。




………待ちきれないんだな。











「咲子さん、その蛍の光を追って下さい」




「蛍を……?」

「その光が、大切な人の元へと導いてくれます」

「あの人の………私、行けるのですね?」



咲子さんの表情に、喜びの色が浮かび上がる。




「そう、あなたももう、気付いている筈ですよ」









月が、雲に隠れた。



まるで、蛍の放つ虹色の光を際立たせるかの様に。








咲子さんが迷わない様、辿り着ける様。



祈りながら僕は笑い、ゆっくりと頭を下げた。






「あの人を、お願いします」



待っているだろう、あの人の事を。








「……はい」






咲子さんは、笑った。






ほんのりと朱色に色付くその頬を、笑顔を、蛍が照らしている。







迷いながらここへ現れた時とは違う、美しい笑顔。






ただ純粋に、心に従う笑顔。








どうか、幸せに………。






.
< 89 / 93 >

この作品をシェア

pagetop