6月の蛍―宗久シリーズ1―
役目
「こちらへどうぞ」



縁側沿いの十畳の客間。


僕の誘導に頷き、咲子さんは座卓の前にゆっくりと腰を落ち着けた。





途端、微かに変わる空気の流れ。


咲子さんの着物が擦れる音だけが、静寂な空間に響く。





「あいにく皆、出払っておりまして。お茶くらいしかお出しできませんが」

「いいえ、お構いなく」



ゆったりと頭を下げ、咲子さんは微笑した。






と言われても、お茶くらい出さないと格好がつかないな。



僕は咲子さんに断り、台所へと向かう。


確か戸棚の中に、客用の緑茶と茶碗があったはず。



戸棚をまさぐり、ようやくそれを探しあてた僕は、慣れない手つきでお茶を入れた。



白磁の茶碗、お茶をこぼさない様に盆を支えつつ客間へと戻った。






咲子さんは、ぼんやりと縁側から見える庭の景色を眺めていた。



庭は、僕が言うのも何だが風情がある。



母の趣味で、四季折々、様々な花が咲くのだ。


春等は、庭で花見ができる程の立派な桜の木もある。



梅雨の今季節は、紫陽花が見頃だ。
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