6月の蛍―宗久シリーズ1―
安堵の溜息で肩すくませ、僕は空を見上げた。




それから、紫陽花へと視線を移す。









紫陽花は、揺れていた。




たおやかに、のびやかに……。






「お前、いい子だね」





紫陽花の可憐な花を、指先で撫でる。






しっとりとした柔らかい感触に、最後に見た咲子さんの笑顔を思い出す。








「来年はもっとたくさん花を咲かせられる様に、念入りに手入れをしてやるからな」




返事なのか……花びらから、雨の雫がぽたりと落ちる。







素直だな。






思わず笑いがこぼれた僕の背後から、電話の機械音が静寂な空間に響き、余韻を掻き消した。












………誰からなのか。



どんな報せなのか。









僕は、取る前からわかっていた。







いや、もうだいぶ前からわかっていた。







覚悟も、運命も、何もかも。






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