ドキドキ
「げっ、45分後だ。電車」

「どんまーい。あ、あたしの来た」

「残れ、お前も」

「いーや。あたしは帰るもーん。じゃねえ、また明日」

「薄情」



腕を組んで階段を登って来たカップルの会話が自然と耳に入る。

男のほうはどうやらあたしと同じ電車らしい。お互い45分も待たなくちゃいけないなんてツイてないね。
彼女はちょうどホームに滑り込んで来た別方向の電車に乗った。

閉まったドア越しに彼女が手を振るのを見て、ふと思った。


あたし、いつまで見てるつもりよ。
じろじろと見すぎだった、と鞄についたぬいぐるみに目を移した。


左手につけた腕時計と睨めっこしても秒針の進むスピードは変わらない。
時間が経つのが遅すぎる。


やだ、とため息をついたときあたしの3つ隣にさっきの男が座った。

視線を少しだけやって、また時計に目を戻した。


カチカチと携帯をいじる音だけが辺りに響いていた。
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