ドキドキ
寒い中電車を待っていれば汗をかいていた身体も芯まで冷え切ってしまっていた。

暖かい車内に乗り込めば人が少なく、楽に席に座れてほっとする。
一緒に乗った男はあたしの斜め前に座ったのが見えた。


最寄りの駅まで1時間。
また、あたしは何もすることがなくなって、気が付けば寝入ってしまっていた。



降車駅がアナウンスから流れてきて自然と意識が戻って来る。

顔を上げれば、斜め前の席にまだその人は座っていて携帯をいじっていた。

ここまで一緒なんてこの人も大変だな。


ドアの前に立って、徐々にスピードが落ちる電車から流れる風景を見る。停車して、ドアが開くと同時にホームへと降り立った。


時計の短針は既に8を過ぎていて、気分が落ち込む。
お父さんに怒られる。

げんなりとして改札をくぐる。



「シケたつらしてんな」

「あ、」

「連絡いれねえと親父怒るだろ」



駆け足で近寄るとごつんと軽いげんこつをもらった。

どうやらお父さんを上手く言いくるめて迎えに来てくれたらしい。



「ありがとっ」

「しゃーねぇ、かわいいかわいい有佐のためだ。明日の朝も駅まで送ってやらぁ」

「ホント?だいすきー」



コラコラ、棒読みだぞ。
お兄ちゃんの声を遠くに聞きながら、その背後を通るあの人と、一瞬だけど目があった。

だいすき、なんて叫んだけどあの人の目にはあたしたち兄妹は何に見えるのかな、とふと頭をよぎった。
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