キマイラ
知らない男が愛澤さんの下の名前を呼んだ。
何故かそれがムカついて、胸が苦しい。
待て、落ち着け俺。
彼女たちにばれないように物陰に隠れて様子を窺う。
『……龍地さん』
「仕事帰りだからついでだよ。今日だけ」
『……』
「あ、人目がつくって?いいじゃんたまには。それとメイさんだけ乗せて帰るつもりだよ」
『……』
「分かってる。気付いてるからあまり話さないよ。さ、乗って」
愛澤さんは男の名前を口にした後何もしゃべってないが、男は彼女の言いたいことがわかるように一人で話し、愛澤さんは無言のまま車に乗った。
そして一分くらいそこに留まってから車は発進した。
龍地……。
彼女はそう呼んだ。
俺でさえ苗字で呼ばれたことないのに。
茶髪でサングラスをかけていた。
歳は20代前半。
大人な男性。
悔しくもカッコよかった。
知り合いだ。
愛澤さんにあんな知り合いがいたんだ……。
ショックを受けている自分がいた。