キマイラ



彼女のところへ歩み寄り、恐る恐る彼女の頬を伝って流れる涙を手で拭った。



『え……』



愛澤さんは俺が触れるまで、涙を流していたことに自分で気付いていなかったらしく、驚いた顔して自分の顔に触れた。



『なんで……』

「別に思ってないよ」



俺を見る愛澤さん。
無表情じゃなくて、涙を流して訳がわからないという顔をする。
俺は静かに言った。



「平手打ちの方が痛いと思うけど、俺も叩かれたことあるし」



初めてあからさまに拒絶されても。



「飴あげてもお礼言ってくれないし」



期待しても全然応えてくれなくても。



「そんなこと今更だよ」



俺は愛澤さんに話しかけるのをやめなかった。
嫌いならなかった。

たまに俺の言葉を返してくれた時はすごく嬉しくて、一瞬見たあの笑顔をまた見てみたくて、色んな彼女が知りたくて、必死だった。





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