pain〜約束の梯子〜
一瞬、躰が強張る。
違う、この声じゃない。
振り向くと禍々しいモノでも見る様に母が立っていた。
「電気くらい点けなさい。後、お水飲むなら汚いからグラスに注ぎなさい」
「…うん」
あんたよりはキレイだけどね。
この人の発する言葉は、塩素系の原液みたい。
頭から溶解液に沈めてやりたい。
僕の中ではもう『潔癖症のおばさん』という名詞でしかない人。
でも敢えて露骨には出さない。
だって
経済力のない僕が独りで生きるのは不可能だし、出来るだけ長くこののほほんとした平和な日常ってやつが続く事を切に願ってる。
誰だってそうだろ?
夢の余韻も薄れ、部屋へ戻る。
至って普通の17歳男子の部屋。
モノトーンで統一されていて、まぁそれなりに整理されている。
世界的水準で見れば恵まれている方だと思う。
でもそれが幸せかどうかなんて、どんな力を持ってしても計り知れないし、そんなの大して問題じゃない。
僕は今幸せだと思ってないから。
それなのに
『世界的水準から見て恵まれている自分』に抗わず生きている。
そしてこれからも、それを死守するだけ。