pain〜約束の梯子〜
「行ってらっしゃい」
靴を履く音に気付いたのか、ダイニングの方から『おばさん』の声がした。
その一定に保たれた波形の音は、僅かに空気を振動させて、僕の鼓膜の中で波紋の様に拡がった。
「行ってきます」
駅に着くと足は真っ先にトイレに直行する。
排泄物が醗酵した様な臭いと不衛生な様に促進されて、否応なしに吐き出された不純物は、孤を描き、まるで葬り去られるかの様に消えた。
それを見て僕はほくそ笑む。
これが反抗期の無かった僕のささやかな反抗である。
ラッシュを避けているつもりなのに、朝の電車内は結構程よく混んでいた。
他人と触れ合うってだけでも僕にとってはアウトなのに、近頃のリーマンの心の闇には参る。
その行為、僕が男だって解ってやってんの?
駅のトイレでリバースしといて正解。
じゃなきゃ確実に此処で吐いてたよ。