月物語 ~黒き者たちの宴~
「お気をつけていってらっしゃいませ。
必ず、必ず、無事にご帰還を。」
老人は跪いた。
老人の額の上で、露が瞬く。
「あぁ。」
青年の声には芯がなかった。
目前には闇しかない。
月も星も、ただ遠くで光るだけだ。
―“あなた”は私をどうしたいのですか。
青年はその思いを払拭するかのように翼を広げると、天高く飛び去った。
「天よ、どうか祝融(しゅくゆう)様をお守りください…」