月物語 ~黒き者たちの宴~
ふと、
女の寝台がこんなにも美しいものだったかと、男は疑問に思った。
寝台は極彩色の彫り物であしらわれ、金がふんだんに使われている。
輝かしい鏡台、
麗しい花、
鮮やかな天井の装飾…
部屋中のありとあらゆるものが美しく見えた。
今までそんなことを気にもとめたことがなかったから、男は不思議に思った。
男は再び女に視線を戻す。
女の顔には、たくさんのしわが刻まれていた。
シーツから出された手は、つるりとした枝のようだ。
女が口を開いた。
「何を今更。
わらわはもう隠居の身。
年をとって当たり前じゃ。」
男はぎょっとした。
何か取り繕うと考えを巡らせたが止めた。
女に何を言っても無駄なことは、男が一番よくわかっていた。
そして、
なぜモノが美しく見えたのかも理解した。