月物語 ~黒き者たちの宴~



礼は何も応えない。



毒薬を盛られたことを言っていた。



「わらわが求めていたものは、『美』じゃ。
貴族のそれは金の織物か、民のそれは一粒の米か、恋人のそれは愛か―――。」



雉雀の視線の先には、青々とした緑木がある。



開け放たれた戸から覗くのは、木々よりも輝く空の方が広大だ。



「皆が、美しく生きられればそれでよい。
わらわも王として美しくあろう。
そう思っていた。」



「思っていた?」



それは正しいことのような気がした。



だが何故過去のことになってしまったのか。



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