月物語 ~黒き者たちの宴~
「宋春。」
「はっ。」
宋春は、心配のためか陽春から目が離せないでいる。
「宋春なら大丈夫だ。」
礼の言葉に一瞬驚くも、宋春は初めて笑顔を見せた。
―なんだ、笑えるのね。
「陽春とは、どんな関係なのか訊いても?」
宋春は頷く。
「陽春と私は、雉院様に拾われたのです。」
「………えっ?」
「ここより北に、英果山という鉱物の取れる山がございます。
そこに、陽春と私は住んでおりました。
鉱山の一部では金が取れ、麓には豊かな町が広がっております。
しかし、豊かであればこそ、そこには絶対に埋められない格差がございました。
私と陽春の親は、敗者の側の人間です。
親に売られた先が、その鉱山でした。
今でも思い出せます。
貧しくても私たちはそれなりに幸せで、毎日を二人で過ごしていました。
主人は、人道的でしたし。
私が17、陽春9つになるころ、雉院様が金を買うために英果山にいらっしゃいました。」