月物語 ~黒き者たちの宴~
「けれど、幼かった私は、陽春と離れることなど考えられなかった。
ご恩に報いるどころか―」
宋春は笑った。
「雉院様に剣を向けたのです。」
今の宋春からは信じられない。
「兄上は、兵も恐れず連れて行かれる私の方へ飛び込みましたね。」
陽春がお茶を運んできた。
「もちろん私は兵に捕らわれました。
けれど、雉院様は我々を許してくださったのです。」
「我々二人を離すことはないと、主に申し出てくださり―」
「そう。」
確かに二人とも美しい。
容姿が…
いや、それだけではない。
その忠誠の心が―。