月物語 ~黒き者たちの宴~
ザッ。
風の流れが変わった。
草の波に飲み込まれるように、うさぎは消えてしまった。
「嫌な風。
ねぇ、猫さんの名前は?」
礼は優しく笑った。
その微笑みに、さっきの威圧感はない。
気のせいだったのかと猫は疑した。
「わしか?わしは鰯(いわし)じゃ。
お前さん、やけに落ち着いとるのう。
普通、もっとこう…」
言いかけて止めた。
鰯の瞳が、遠方の空の黒い染みを捕らえる。
「お前さん、立てるか?」
「えっ?」
鰯は急に走る体制をとった。
礼も慌てて飛び起きる。
「あそこに見える森まで一気に走るぞ。」