月物語 ~黒き者たちの宴~



ザッ。



風の流れが変わった。



草の波に飲み込まれるように、うさぎは消えてしまった。



「嫌な風。
ねぇ、猫さんの名前は?」



礼は優しく笑った。



その微笑みに、さっきの威圧感はない。



気のせいだったのかと猫は疑した。



「わしか?わしは鰯(いわし)じゃ。
お前さん、やけに落ち着いとるのう。
普通、もっとこう…」



言いかけて止めた。



鰯の瞳が、遠方の空の黒い染みを捕らえる。



「お前さん、立てるか?」



「えっ?」



鰯は急に走る体制をとった。



礼も慌てて飛び起きる。



「あそこに見える森まで一気に走るぞ。」



< 22 / 334 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop