月物語 ~黒き者たちの宴~
―それにしても、でかい。
でかすぎるでしょ、これ。
「ねぇ。
この木、いったいなんなの?
かなりご老人ね。」
一本の木に近づいた。
どれも大木だったが、その中でも一際大きな木だった。
根に気をつけろと言われたので、用心深く幹まで近寄った。
幹に手を触れると、ひんやりとして冷たい。
ドクン、ドクン―――。
木の鼓動を感じる。
そのまま、幹に頬を寄せた。
―大樹たちが嫌がらない。
やはりただの変人か。
まぁ…この森に入れた時点で、害はないか。
それでも、鰯は礼への疑念が拭えなかった。
触れられた時の威圧感が、どうしても気のせいだったとは思えない。
鰯の目に映る礼は、暫く目を閉じたまま、大樹の鼓動を楽しんでいた。