月物語 ~黒き者たちの宴~



今しかない。



人の決意など、すぐに揺らいで跡形もなく崩壊してしまう。



母が目覚める前に―――。



朝日が昇り始めた。



小瓶を透かし見ると、日の光でキラキラと輝いている。



―結局あたしは…



いつも自分のことばかり。



最後まで考えたのは、他人の目に映る自分の姿だけ。



思いやりがないか。



いや、そんな単純なものではない。



窓の外で雀が鳴いた。



時間切れだ。



もう一度母を見ようとしたが、やめた。



右手の温もりだけで十分だった。



小瓶の蓋を摘む。



小さく、ゆっくりと呼吸を整える。



―記憶の中の私は、いつか風化してサラサラの砂粒に帰る。



だから…ごめんなさい。



数滴の液体が闇へ落ちた。



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