月物語 ~黒き者たちの宴~
「王のことは、私の口からは申し上げられませぬじゃ。
ただあの烏については、お話し申し上げましょう。
奴らを別名、“魂を喰らう鳥”。
黒きものは、天の人以外で唯一魂に触れることのできる存在にござりまする。
ご覧の通り、私の身体も黒い。
奴らとは主を異にしますが、性質は同じものでございます。
本来なら、このようなところに現れるはずはないのですが…
おそらく、王の魂を嗅ぎつけてきたのかと。」
鰯は礼の方をちらりと見たが、一向に動じる気配がない。
―さっきのあの感じは、王の気じゃったか。
こんなことで驚いていては、王は務まらぬということかのぉ。
しかし、なぜこんなところに。
「あの様に群をなして襲ってきたのは初めてでございます。
よほど、あなた様の“魂”が天に近かったのでしょう。」
礼は、聞き逃せない単語を耳にした。
「ちょっ、ちょとまって。
たったっ魂!?
今のあたしは、魂なの?」
「左様でございます。」
礼は、自分の身体をまじまじと見る。
―これが、魂の感覚。
魂の存在だといっても特に変わったところはない。
何一つ変わらない。