月物語 ~黒き者たちの宴~
これであそこにはもう一生戻れない。
たくさんのものを置いてきてしまった。
たくさんの後悔を残してきてしまった。
烏が声を聞きつけようが構わないと思った。
とにかく今のうちに泣いておきたかった。
「今回は、身体もついておる。
黄宮の庭じゃし、いくらでも泣くがよい。」
「うっ、うん…鰯、喋り方戻ってる。」
礼は泣きながら笑ってみせた。
「それをお前が望んでいるから。」
見下す存在はいらない。
駒も盤上もいらない。
ただ欲しいのは、対等であれる存在。
“本当の自分”を見つめることのできる、場所。
それは用意されているものではない。
自分の手で創っていく。