月物語 ~黒き者たちの宴~
「待っておったぞ。」
鰯は、立ち止まってひれ伏した。
礼も慌てて屈もうとしたが、女に止められた。
「王が軽々しく頭を下げてはならぬぞ。
事情は木に聞いた。
鰯、よく連れて参ったのう。」
とても優しい声だった。
「ははぁ。」と鰯は地面に顎をつけた。
先ほどから、顎は大丈夫だろうかと少し心配になる。
「ここは天廟。
わらわは、黄(こう)の神事を司る者。
まぁ入るが良い。
話は中じゃ。
鰯の力だけでは無理じゃろうて、わらわも手を貸そう。」
そう言うと、女は側近を連れて中に入っていった。
石畳に座っていた一人の少女が立ち上がって、こちらに近づいてきた。
先ほどの女より、うんと若かい。
―16、7歳くらいかしら。
かわいい。
「ご案内致します。
鰯様もどうぞこちらへ。」
促されるまま、礼は少女の後に従った。