月物語 ~黒き者たちの宴~
バスではあっと言う間に通り過ぎる道も、歩いてみると思ったより長く、時折知らない景色を見せた。
―そうよ。
みんなバス越しに私を見ているんだわ。
何て愚かで哀れなの。
目に焼き付けろと言わんばかりに、次々と景色が飛び込んできた。
水源池に差し掛かったところで、たくさんの花が咲く家を見つけた。
花も草も、オレンジ色に染まっていたから、それらが本当は何色なのかわからなかった。
まるで、フィルターのかかった人の目のようだと思った。
誰も“本当の私”を見ていない。
見ようとしない。