雨のち晴
「あ、忘れて?何か、うん。もう…忘れて」
「朱里」
十夜があたしの名を呼ぶ声は、
ひどく優しくて。
まるで壊れそうな何かを、
そっと包むような、
そんな感じ。
「本当、ごめんね」
あたしはそれだけ言って、
ビンゴの紙を片手に
教室を出た。
走れない。
すぐにでも離れたいのに、
歩くこともままならない。
「好きだったぁ…」
諦めるの、朱里。
もう十夜を想って泣いちゃだめ。
十夜は彼女がいて、
あたしの物じゃない。
「お、朱里!」
玄関で靴を履きかえる。
段差に座っているあたしは、
声に反応して顔を上げる。
「諒司…先輩」
「みんな飲み物買いに行くって。朱里が教室行ったって聞いたから、迎え、に…」
諒司先輩はあたしの様子に
気付いたのか、
語尾が弱まる。
「朱里、泣いてんのか?」
「終わったの、あたし…もうだめなの」
諒司先輩はあたしの前にしゃがむと、
涙で濡れて顔に引っ付いている
髪の毛を指で梳いてくれる。
「ごめんって。十夜が、言ったの」
「ちゃんと伝えたのか?」
「言った。けど、無理だったぁ…」
泣かないでおこうと。
前から決めていた。
十夜に想いを告げた時、
笑っていられるように
しようって決めていた。
なのに、あたしは、
簡単に泣いた。
本当情けなくて、弱い。