雨のち晴
「んじゃ、これ…」
たくさん並ぶパンの中の1つに、
手を伸ばす。
「朱里、これ…」
同時に声が重なって。
重なったかと思えば、
同じように伸びてくる手。
「何よ、藤田」
その手が、石黒の手だと
気付くのに3秒。
「いや、別に……」
俺は石黒の言葉と顔に
圧倒されて、言葉がどもる。
どもるわけはもう1つ。
石黒の後ろに見える、
中山の姿と一緒に、
あいつがいたから。
「朱里、これでしょ?」
石黒は俺が手を伸ばしてたことを
知ってるのに、
引こうとしない。
譲れよ、って言われてる感じ。
「いい…いらない。今日は、我慢する」
少し俯いて、
申し訳なさそうに
そんなことを言う。
こいつも1年の時に
同じクラスだった。
高原朱里。