雨のち晴





「別に何も?」




そうやって白を切る。


もういいだろ、帰れよ。


また心の中で呟く。


だけど、見られてるわけで。


別に何も?じゃ、


通じるわけなくて。





「十夜くん、あたし…っ」





甘ったるい声が、教室中に響く。


俺は本気で、帰れと思った。


ここは俺と朱里の、


2人の空間なんだけど。


そう言おうかと思ったけど。


隣で、うーんと少し声を漏らす


朱里がいて。


俺は手短に。






「話なら学校始まってからにしてくんない?」





冷たくそう言った。


咲坂はすでに泣いていて。


俺が見ても分かる。


こいつはその涙で、


何人も騙してきたはず。


現に何人か聞いてるし。


だけど、残念。


俺は騙されませーん。


っていうより、興味なし。


だって俺が好きなのは、


朱里だけだから。





「明日…、教室で待ってる」





咲坂は、まるで


恋人の浮気現場でも目撃したかの


ような発言を残して。


バタバタと走り去っていく。






「あ、やばい。…あたし、寝てた?」





かすれた声で、


そう言う朱里。


俺はどきっとして、


返事もせず帰る準備をする。






「帰るぞ。ったく、何で15分の間で寝れんだよ、お前は」




そんなこと言いながら。


さっきキスした?って、


言われねーか、内心びくびく。


そんなこと知られたら、


俺気持ち悪がられて無視される。


それはまじで勘弁。





< 115 / 281 >

この作品をシェア

pagetop