雨のち晴
「してますよ、心配しなくても」
『朱里、頭いいんだってな。羨ましい』
「諒司先輩こそ、意外といいって聞きましたよ?」
『意外っていらないだろ。普通に褒めろよ』
あははは、と笑い合うあたしと
諒司先輩。
付き合ってもう1ヵ月。
相変わらず優しい彼。
気付けば、またテストで。
明日でラストという今日。
諒司先輩はあたしの勉強の
邪魔をする。
『今は何の勉強してた?』
「英語です。明日あるんで」
パラパラとノートを見返す。
英語の先生は意地悪だから、
1学期にやった内容も
少し出してくる。
復習、とか言って初めに5問。
だからノートは捨てられず、
ずっと使わなきゃいけなくて。
『俺英語嫌いだわ、俺ら日本人だし?』
「はいはい、知ってます」
見返しながら、電話で話す。
どこから出るって言ってたっけ。
ノートを前に前にめくっていく。
『だから今度俺に教えて、英語』
「やーです。自力で頑張ろうとしてくだ…さい」
たまたま開けたページに。
見慣れた、雑な字があって。
『どうした?』
「何もないです。ちょっと眠たくなっちゃって」
目にはうっすら涙。
悪いって、分かってる。
『もうこんな時間か。ごめん。勉強の邪魔して』
「先輩も、ちゃんと勉強してね?」
こんな雑なのに。
見覚えのあるその字に。
胸が打たれる。
『おやすみ』
先輩のおやすみにも、
言葉が出ないくらいに。
自分の体に衝撃が走って。
「何よ、これ…」
ノートの端っこに。
十夜が書いた、
"ノートありがとう"
の、文字と。
下手くそな、ピースの絵。