雨のち晴
さっきよりも遠い所から。
あたしと同じタイミングで、
名前が呼ばれ。
「やる」
「えっ…」
白い物がこっちに飛んできて。
必死に掴んだそれは、
ホッカイロ。
ポケットに入ってたのか、
すごく温かい。
受け取って、十夜を見たけど。
もう背中を向けて、
向こうに歩いて行った。
あー、染みる。
自分の痛い部分に。
諒司先輩を、好きになる。
そう固く決意したはずなのに。
簡単に、崩れていく。
最低な、人間がここにいる。
あたしは、自分が、
情けなくて仕方なくて。
ホッカイロを握りしめて、
玄関に向かう。
さっきまでそこにいた十夜が
いなくなった。
たったそれだけなのに、
すごくすごく寒くて。
だけど手のひらの中にある、
ホッカイロだけが、
あたしを温めてくれた。
痛くて、辛い。
これが現実。
「ごめんっ!」
靴を履き替えて、
玄関に行くと。
そこには麗華しかいない。
「あっれ…恵衣は?」
「今担任に会って、連れてかれた」
だからもう少し待ってよ。
そう言う麗華に頷いて見せ、
段差に腰を下ろす。
「で?」
「えっ…?」
「2人で、いたんでしょ?」
あたしをじっと見つめる麗華。
あたしは、会った流れを話し。
誕生日や年明けの電話のことを話し。
さっき謝られたことと。
ホッカイロをもらったことを話した。