雨のち晴
「あたし…最低だよね」
「そうかな?」
麗華はあたしに引っ付いて。
周りに聞こえないように、
こっそり声を出す。
「正直さ、好きになろうとするって、変じゃない?」
「変?」
「だってさ、好きになるって本能じゃない。なろうとして、なれるものじゃないと思う」
あたしは、諒司先輩を好きになる。
大事にしたい。
諒司先輩の気持ち。
だけど。
やっぱり、十夜を想う時はある。
何してるのかな、って
考えちゃう時はある。
「諒司先輩は、すごくいい人だよ。朱里を大事にしてると思う。だけど、あたしずっと思ってたんだけど。言っていい?」
「うん」
いつになく、真剣な麗華は。
静かに、綺麗に、
言葉を紡ぐ。
「朱里がしてることは、決して間違いじゃない。そうしようって決めたなら、あたしは応援したい。だけど、このまま全てが進んでいくとは思えないの」
手のひらを温める、
ホッカイロをぎゅーっと握る。
聞きたくない言葉。
だけど、聞かなくちゃいけない言葉。
あたしはずっと、
逃げてた。
「諒司先輩は優しいから、きっと朱里がどうしても、受け入れてくれると思うよ。でもさ、あたしは、諒司先輩よりも、朱里の方が大事だよ」
「麗華…」
「あんたが苦しんでるなら、支えたい。自分に偽ってまで、頑張る必要ないと思う。っていうのも、経験者は語るなんだけどね」
くすくす笑う麗華は、
ごめんと言った。
あたしは何も分からなくて、
首を傾げる。
「これはさ、ずっと言わないでおこうと思ってたんだけど。あたし、ずっと関根先生が好きで」
「え!関っ…」
声が大きいと、口を塞がれる。
だって。だって。
関根先生は、あたしたちの1年の時の
担任の先生で、
今の担任よりも、もっと
人遣いが荒くて、意地悪な人。
だけど、まぁまぁ人気もあって、
中には本気で好きだった人も
いたらしい。
年齢は30歳くらいで、若め。
あたしも好きだったけど、
まさか麗華が本気で好きだったとは。