雨のち晴
「おめでとうございます」
「ありがとう!朱里!」
桜がまた今年も咲いて。
毎年来る、卒業の季節。
この3月、諒司先輩は卒業する。
「早いですね、卒業なんて」
「昨日入学した気がすんだけど」
「それ、言い過ぎでしょ」
式が終わり、
玄関でたくさんの人が
別れを惜しんでいる。
恵衣は真太先輩と。
麗華は健先輩と。
そしてあたしは、諒司先輩と。
「でも、真太と恵衣ちゃんが引っ付いてくれてよかった」
「ですね。本当お似合い」
がやがや周りがうるさくて。
だけどしっかり、
あたしたちだけの空間。
「ま、俺の大学も近くだからさ。休みの日とか連絡するから」
「はい。待ってます」
諒司先輩は大学進学。
高校から20分くらいの距離で、
会おうと思えば会える距離。
だから、変な話。
寂しいとかは思わなくて。
「あ、諒司!」
「何時に行く~?」
遠くから、女の先輩は
諒司先輩に声をかける。
「この後、何かあるの?」
「クラス会。正直面倒なんだけどさ」
そう言いつつも、
何時に行くと答えを返す。
諒司先輩には、諒司先輩の
時間や世界があるんだなって。
思った瞬間だった。
「じゃ、あたし教室に鞄あるんで」
「そうだな。じゃあ…またな」
晴れ晴れとした空の下。
諒司先輩は、堂々とあたしの
頭を撫で、名残惜しそうに
去って行った。
集まる注目。
先輩方の怖い視線。
あたしは早くその場を離れようと、
教室に戻ることにした。