雨のち晴





「石黒」





車に乗り込んで、窓から


顔を出す麗華に。





「丘谷さんに状況説明しといてもらって。朱里の口から話さなくて済むように」





「分かった。伝えてもらう」





気を付けて帰ってね。


何かあったら、また連絡してね。


たくさん、言葉を残して、


麗華を乗せた健先輩の車は


音を立てて去って行った。





「帰るぞ」





十夜は隣を歩いてくれたけど、


さっき繋いでいた手が


再び繋がれることはなかった。


手を伸ばそうと思ったけど、


やっぱりそんなこと出来なくて。


あたしは隣を歩けるだけで、


嬉しくて仕方なかった。


歩きながら、他愛もない


話をした。


友だちの話とか、


3年生になったらの話とか。


他の人とじゃつまらない話でも、


十夜とだから楽しかった。


幸せだった。


あんなことがあったことも忘れて、


まるでデートの帰り道のような


気分だった。







「今日は本当にありがとう」




家の前。


諒司先輩とは角だけど、


なぜか十夜は自然と家の前。





「着いたら、また連絡する」





「分かった。気を付けてね?」





十夜が。


少しずつ。


離れて行く。






「朱里」






中に入ろうとした時。


遠くから名前を呼ばれて。






「夜中でもいいから。怖くなったら連絡しろ」





そう言って、


背中を向けて帰って行った。


優しさが、時に残酷で。


残酷さが、現実に引き戻す。


十夜がいなくなって、


急に虚しくなった。


この瞬間。


もう少し落ち着いたら、


きちんと諒司先輩に話そう。


訳を話して、ちゃんと謝って、


先輩を手放そう。


勝手なのは分かってる。


だけど、もう。


嘘が付けなくなってしまった。





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