雨のち晴





「朱里」





はっとして顔を上げる。


そこには麗華が立っていて。






「麗華…」





「恵衣、用事があるって先帰ったよ」





「そっかぁ…」






お腹が空いた。


なのに、食べたくない。


何で?どうして?


そう思っていると、


麗華が前の席に腰を下ろし。






「さっきうちのクラスでさ」






ゆっくり、言葉を紡いだ。






「諒司先輩のこと、話してたの聞いたんだけど」






諒司先輩の名前が出て、


少し体が強張った。






「諒司先輩、前にすごい怖かったんだって」





「怖かった?」





「上手く言えないんだけど、暴力振るったとか、次々女の人変えてたとか」






あの、諒司先輩が。


そんなことするはずない。


だってあんなに優しくて、


あたしを想ってくれてるのに。


あたしの知らない諒司先輩が、


いるっていうの?






「あくまでも噂だから信じるかは朱里に任せる。でもさっき、何かあったみたいだから」





「うん。さっきね」





あったことを説明する。


うんうん、と聞いてくれる麗華は。


いつになく真剣だった。






「信じたくないな、嘘だよ」






「諒司先輩だけじゃなくて、健とか真太先輩たちも言われてて」






2人の間の空気が沈んでいて。


もう、笑えなかった。


大丈夫だよね。


何もないよね。


そう言い合って、


帰ることにした。


帰ってからも上の空で。


諒司先輩からかかってきた電話に、


出ることも出来なくて。


ただひたすら、


布団にもぐって身を潜めた。


お願いだから、


明日には噂がなくなっていますように。


諒司先輩が悪く言われるのは、


何だかすごく嫌だ。






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