雨のち晴





「俺はこんなこと頼んだ覚えはない」





「藤田、」





「こんなことして、朱里を守ってるとでも言いたいのか?」





十夜の顔が。


すっごく怒ってた。


あたしは肩とお尻の痛みを


堪えながら立ち上がる。


十夜は諒司先輩から視線を逸らし、


あたしを見ると。


大丈夫か、と一言。





「うん…」





恵衣が十夜を涙ぐんで見つめる。


それに気付いた十夜は、


真太先輩に構わず、恵衣の


頭をくしゃっと撫でた。


麗華はそれを見て、


少し笑っていた。


十夜は本当に、


あたしたちをいつも助けてくれる。






「あんたたちがしたことは間違ってる。さっさと謝って、さっさと帰れ」





十夜が女の人にそう言うと、


気持ち悪いくらいに素直に


謝られた。


そして、最後に。






「丘谷さん」





諒司先輩に向かって。





「次こんなことがあった時は、許しませんから」





そう言うと、


恵衣と麗華に気を付けて帰れと


言い残し、友だちの中に


戻って帰って行った。


静まり返った校門に佇んで、


十夜を追いたいなって、


1人考えてた。






「朱里、俺…」





諒司先輩の言葉に返そうとすると。


それよりも先に。





「真太先輩、別れて下さい…」





恵衣がそう言った。


恵衣はこの事態が怖くてか、


十夜に会ったことの安堵感か、


泣き止むことがなくて。


麗華と目が合った健先輩は、


何かを汲み取ったように


帰るぞとみんなに言って去って行った。


真太先輩は、小さくなった恵衣を


思い切り抱きしめて。


ごめん、とひたすら謝っていて。


それでもダメだったのか、


恵衣はずっと拒否し続け、


麗華から離れなかった。






「真太先輩、恵衣今日は話せそうにないから」





「分かった。また連絡する」





真太先輩は最後にごめんと言い、


健先輩の後を追って走って行った。






「朱里、一緒に…」




「あたし、恵衣と麗華が心配だから、一緒には帰れません」





ごめんなさい、とはっきり言った。


ショックだったのか、


顔が曇っている。


だけどもう、かける言葉も


なかった。





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