雨のち晴






「こんなの、怖くて無理だよ」




「恵衣、落ち着いて」





歩きながら、恵衣を肩を摩る。


麗華も少し悲しそうな顔をしている。


あたしも、笑うことが出来なかった。


あんなの、誰でも怖いと思う。


噂が立つのは、分かる。


あたしたちのためでも、


あんなことしてほしくない。





「真太先輩が、あんなことするなんて…」





「でも真太先輩がしたって証拠ないでしょ?」





「そうだけど、でも…」






諒司先輩は、何もしてないと思う。


ただあたしたちに謝らせたかった。


それだけだと思う。


でも確かに、怖かった。


声も、顔も、怒ってて。


あたしの知ってる諒司先輩じゃない。





「じゃ朱里、あたし恵衣送ってくね」





「うん、また明日ね」





去って行く2人の背中を見て、


明日には元気になっていますようにと


切に願った。


あたしも家までの道を歩く。


少し薄暗くて、


カラスが鳴いてる。


もう夕方か。


さっきあんなことがあったことが、


嘘みたいで。


あーあ、十夜に会いたいな。


会って、くだらないこと話したいな。


とにかく声が、聴きたい。


そう思ったら止まらなくなって。


気付けば携帯を取り出して、


十夜に電話をかけていた。


無意識に近かったと思う。






『朱里?』





「十夜…」





空を仰ぐ。


声を聞いて、思わず涙。


もう、限界だった。


これ以上、諒司先輩と


一緒にいられないと思った。


さっきのことがあったからとか、


そういうのじゃなくて。


もう、十夜じゃないと


無理だと思ったから。


叶わなくても、いいと思った。


一生片想いでもいい。


せめて3年生の間だけでいいから。


十夜を想いたい。






『体、痛んでないか?』





「ん、大丈夫だよ」





『もう家か?』





「もうすぐ着くよ」





掠れる声を聞いて、


また泣いて。


でも苦しくなくて。






『お前、無茶すんなよ。間入ったりなんか、何されてもおかしくねーんだぞ』





「だって、いくらなんでも蹴るなんて最低だと思って」





『お前らしいけど、出来ればやめて』






可愛いなって、思うのはおかしいのかな。






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