雨のち晴







「藤田ですけど。自分の女が来てくれって頼んで、来ねぇって、どんな神経してんすか?」





朱里から携帯を取って、


丘谷に向かってそう言った。


すると、丘谷は。





『何で…藤田くん?』





そう言ってきた。


あー、何でこいつなんだろうって。


何であの時、言えなかったんだろうって。


すっげえ、後悔した。




「そういうこと言ってるんじゃ、ないんすけど」





『そう、だね。何かあったの?』





こう状況でも、


呑気に何があったか


聞いてくるあたり。


俺は不思議で仕方ない。






「もういいっす。じゃ」





何か言ってたけど、


無視して通話終了。


自分の女が他の男といる


不安を味わいながら、


バイトしてやがれ、ばーか。






「んで、あいつなんだよ」





朱里に携帯を渡して、


少し嫌味を言ってから。


今度は俺の携帯を取り出して。






「石黒、お前、今家?」





別に俺は朱里と2人で


いいんだけど。


むしろ、2人でいたいんだけど。


だけど、傷付いたのは朱里で。


もしかしたら、


怖いかもしれないからって。


始め中山にしようかと思ったけど。


あいつ絶対泣いてうるせぇから。


あえての石黒選択で。






『家じゃないけど。どうかした?』





「いや、朱里が男に襲われたから。俺しかいねーし、来てやってくんねぇかなって」





『は…何それ。分かった、すぐ行く』





「あ、でもお前1人で来るなら俺らがそっちに…」





『いい。先輩いるから送ってもらう。学校で待ってて』





そう言うと、


石黒はすぐに電話を切った。


朱里がどれだけ大切に想われてるか、


すごく分かる。






< 241 / 281 >

この作品をシェア

pagetop