雨のち晴





「石黒が今から来てくれるって」





「うん、ありがとう」




その瞬間。


卑怯な俺は、


朱里に手を差し出した。






「場所、変えるぞ」




すると朱里はためらいもなく、


俺の手を取った。


俺はその手を握って、


暗闇の中を歩いた。


この小さな手を持つ朱里を、


怖い思いさせた奴らと。


咲坂だけは絶対に許さねえ。





「朱里!」



学校に着いてすぐ、


校門の方に車が停まった。


そこから出て来る石黒は、


なりふり構わず走って来て。


朱里を抱きしめた。






「麗華、ありがとう」





「大丈夫だった?何もされてない?痛いとこは?」





「大丈夫だよ、ごめんね」





「ほっぺ、腫れてるじゃん…もう、誰よ、こんな…」




そんな2人の会話を、


少し離れた所で聞いている


丘谷と仲良い先輩。






「怖かったよね…」





「大丈夫。十夜がね、来てくれたの」





そう言う朱里の後に。






「朱里ちゃんを助けてくれてありがとう」





なんて言うもんだから。





「朱里のためなんで」





子どもみたいにムキになって、


そいつを睨んで言ってやった。


何が助けてくれてありがとう、だ。


てめぇのためじゃねぇよ。






「朱里、もう帰るよね?」





「そうだ。よかったら、送って…」





だから。


誰もお前は呼んでないから。


俺が呼んだのは、


石黒だから。





「いいです。俺が送って行きますから」




悪ぃ、石黒。と。


石黒には謝罪の言葉を入れて。






< 242 / 281 >

この作品をシェア

pagetop