雨のち晴
「俺がこんなこと、言うのもおかしいけどさ」
丘谷は下を向いて、
息をのむと。
ぐっと泣きそうな顔をして。
「朱里を頼む」
深々と俺に頭を下げた。
何で俺に頭を下げるのか。
答えは、簡単に出ていた。
丘谷はきっと、
朱里の好きな奴はお前だ、と。
そう伝えたいんだと思う。
「文化祭の日にさ」
そう言われて思い出す、
あの日のこと。
この人に、朱里を苦しめるなって
言われたこと。
「俺があんなこと言ったのにさ」
「苦しめるな…って?」
「俺が苦しめてる。今朱里は苦しんでると思う」
情けないな、と。
目頭を熱くする丘谷。
「聞いたよ。里菜ちゃん、だっけ。彼女とのこと」
「え?」
「藤田くんも苦しんだんだね」
そう言われて、
この人がどこまで知ってるのか、
なぜ知ってるのかは知らないけど。
きっとごめんって。
あの時彼女いるくせに、って
言ってごめんって。
言いたいんだと思う。
「もしかしたら藤田くんも俺が苦しめてたのかもしれないな」
「別にそんなことは…」
「ごめんね、藤田くん」
俺だったらこんなこと。
出来ないし、考えもしない。
好きな女を手放せるほど、
出来た人間じゃねぇし。
第一、好きな女を想う男なんて、
邪魔でしかない。
丘谷はそういうことが出来る。
俺は、素直にかっこいいと思った。
「じゃ、藤田くん。またね」
俺に有無を言わせず、
丘谷は去って行った。
俺はしばらく動けずに、
朱里のことを考えていた。