雨のち晴
「十夜?チャイム、鳴ったよ?」
声をかけても起きる気配はなく、
終いにはあたしのスカートの
裾をぎゅっと握り締めてる。
何とも言えない愛しさが、
一気に胸を締め付けた。
「ちょっと、起き…」
て、早く。
そう言おうとした時。
「十夜?いる~?」
ドアが開く音と共に
甘い声がして。
あたしは自分の言葉と同時に、
膝の上にいる十夜を
屋上の地へと投げ捨てた。
ごめん、と思いながらも
こうせずにはいられないから。
「あ、いた!…て、高原さん?」
声の主はもちろん里菜ちゃんで。
甘い声をワントーン下げて、
彼女はあたしの存在を
不快に思っていることを表現した。
「あ、里菜ちゃん。どうも」
里菜ちゃんは、何故か
あたしと十夜が関わることを
心底嫌うのだ。
理由なんて、分からない。
きっと彼女はすごく
嫉妬深いんだろう。
「あ、あたし邪魔だよね!ごめん、戻るね」
あたしは勢い良く立ち上がり、
その場を立ち去った。
名残惜しい空間に、
引き戻されそうになったけど。
あたしはそんなこと
出来ないし、してはいけない。
ただでさえ、少し話せたんだから。
ちょっと触れられたんだから。
もういいんだ。