雨のち晴
「朱里」
卑怯なこの男は、
ひどく優しい声で
あたしの名前を呼んだ。
「頑張れな」
先に立ち去ろうとしていた
あたしよりも先に、
十夜は里菜ちゃんを連れて
グラウンドに向かった。
「頑張れな…、て」
言うなよ、ほんと卑怯な男。
「朱里~!」
近くに身を潜めて、
待っていてくれた、2人が
勢い良くあたしに飛びついて来た。
真っ赤になった顔を、
両手で覆いながら含み笑いをするあたし。
2人はそんなあたしを見て、
可愛いだの、乙女だのと
口々に言っていた。
〔頑張れな〕
別にこれといって
嬉しい言葉じゃないけれど。
十夜が言ってくれたからか、
どの言葉よりも輝いて聞こえた。