雨のち晴
「恵衣~!」
「頑張って~!」
あたしと麗華は、
何も言わないでも息がピッタリ合い
2人で恵衣に声をかけていた。
それに気付いたのか、
恵衣はいつものような
笑顔になり、少しリラックス
したように見える。
さっきと同じピストルが鳴ると、
恵衣は誰よりも先にゴールに着き
見事1着を手に入れた。
「すごい、恵衣。1番だ…」
「ほんとだね…、あ、朱里。藤田」
恵衣の方ばかり見ていたあたしに、
肩を叩いて教えてくれた。
あたしは話すのも忘れて、
言われた方に目を向ける。
そこにはいつもと違う、
戦闘体制の十夜がいた。
「十夜…、頑張れ」
思わず口に出ると、
麗華があたしの肩を更に強く叩く。
ギロっとした視線と共に。
「何、その小さい声。もっと大きい声で言うの。ほら、早く!」
「え、あ…そんな…」
「位置に着いて…」
あたふたしてる間に、
ピストルが鳴った。
パンという銃声なんて、
これっぽっちも聞こえない。
聞こえるのは、
自分の心の声。
言わないと、始まらない。
だけど言えない。
…でも、言ったら何か、変わるかも。
そんな葛藤の末。