雨のち晴
「あなたの好きな人…です」
マイクを通して聞こえた
甘い声は、しっかりと
あたしにも聞こえた。
恥ずかしそうに。
存在を示す。
「藤田くんじゃない!?」
「藤田、お前だってよ!」
隣のテントから、
そんな声がたくさん聞こえる。
歓声が沸く中、
十夜が…立ち上がった。
気が付けば、里菜ちゃんは
そこまで来ていて。
「十夜…行こ?」
うるうるした瞳を大きくして、
里菜ちゃんは十夜に手を、差し伸べた。
「…、」
十夜は黙って、
その手に自分の手を重ねる。
ついさっき、その手は
あたしに触れていたのに。
もうその感触さえ残っていないだろう、
彼の手には。
あたしのもの、と
言わんばかりにぎゅっと
繋がれた。
彼女の手が、あったんだ。