雨のち晴
「あ、まだ生徒が残ってるし、大丈夫よ。起きたら、帰ればいいからね」
「え…、いいんですか?」
「特別、ね。みんなには秘密」
ふふふ、と綺麗に笑ったフジ子ちゃんが、
どことなくモテてしまう理由が
分かった気がした。
「それじゃあ、またね」
フジ子ちゃんは、華麗に手を振って
保健室を後にした。
夕日が室内に差し込む。
真っ白だった室内は、
いつの間にか橙色に変わっている。
「十夜…、起きないの?」
聞こえてくるのは静寂だけ。
あと規則正しい寝息。
置いて帰るわけにもいかないし。
だけどこのままじゃ…。
「十夜…、起きて?」
右腕を揺すってみたけど、
起きる気配は全くない。
意味も無く触れ続ける腕が、
少し熱い気がした。
こうしていられるもの今だけ。
必要以上に近付くことも、
本当は許されないんだ。
分かってる、けど。
それ以上に好きが上回る。
十夜への想いが…辛い。