雨のち晴





「帰って読もうっと」




袋に入った雑誌を鞄にしまい、


あたしはペットボトルのキャップを


開けながら家に向かう。


喉が渇いていた。


だからペットボトルしか見てなくて。






「おっと…っ、」





前に誰かいるだとか、


そんなこと全然気にして無くて。






「んっ…!」





あたしは、知らない誰かにぶつかり、


さっき買ったばかりのジュースを


地面に落としてしまった。






「あ~!あたしのオレンジジュース…」





まだ一口しか飲んでなくて、


しかもまだ喉が渇いていて。






「ごめん!大丈夫?」






大丈夫なわけ、ないでしょ。


あたしはそう思って、


頭上から声をかけてくる


男の人をしゃがんだまま見上げた。





「もう1回買ってくるから!許し…」





「いいです。いりません。さようなら」







あたしは落ちたペットボトルを拾い、


ゴミ箱に捨てると


その人に目もくれず


家へと向かった。


こんなにもジュースを


飲めなかったことに腹を立てるんだ、と


自分に驚きながら。


でも飲みたかったんだもん、と


少ししょんぼりしながら。


あたしは家に向かって、


ひたすら歩いた。






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