雨のち晴
「あ、家ここなんで」
本当に家の前まで送ってもらい。
立ち止まって、少し会釈。
「送ってくれてありがとうございました」
「朱里」
ふと、ひどく優しい声で、
あたしの名前を呼んで。
「プレゼント」
ポケットから、小さな
紙袋を取り出した諒司先輩。
何だろうと受け取ると。
見覚えのあるロゴが入った、
小さな紙袋。
嘘、これって。
「大したもんじゃないけど。今日の記念ってことで」
さっきあたしに似合うって言ってくれた、
少し高いブレスレット。
「何で…、」
「だから今日の記念。いらなかったら捨てていいからさ」
捨てるわけないし。
っていうか、何であたしなんかに
プレゼントしちゃってるの。
んで何あたし、ちゃっかり
もらっちゃってるの。
「も、もらえません…、こんな高いもの」
「値段とかじゃなくて、あげたかったから。それだけだから」
こういうことが出来る人。
諒司先輩は、こういう優しい人。
言葉を選んでくれるし、
行動も考えてくれる。
やっぱりすごく、いい人。
「それじゃあ…遠慮なくいただきます」
「それでよし。じゃあ、またな」
諒司先輩は、少し微笑んで
来た道を戻って行った。
あたしは見えなくなるまで見送ると、
家に帰って部屋に入った。
そして夜。
やっぱりお礼しなきゃと、
もらったブレスレットを腕にはめ。
それを写メって、諒司先輩に送った。
別に送る必要なかったけど。
写メまで撮る必要なかったんだけど。
何だか付けてるよ、って見せて、
安心させてあげたかった。
返信はすぐ返って来て、
可愛い。と。
だったそれだけ。
でも、何だか少し、
心が躍ったような、
そんな気がした。