雨のち晴





「あ~あ、泣いちゃったね」




その時、聞き覚えのある


声が聞こえて来て。


同時に大きい手で目を隠されて。


後ろに誰かが立った。


あたしはそれが誰か、


すぐに分かったけど。





「諒司…先ぱ…ぃっ」




「朱里が泣くから俺も悲しい」




「何、言って…」




少し触れる、諒司先輩の制服が


温もりをくれる。


目を覆う手が、


涙を拭ってくれる。





「泣かないでよ、朱里。あいつのために泣くな」





「諒司先輩…」




そして諒司先輩は。


少し掠れた声で。





「俺と付き合って」





そう言った。


言葉を理解するのに、


時間がかかった。


俺と、付き合って。


確かにそう言った。


諒司先輩は確かに、


あたしにそう言った。





「朱里、俺のものになってよ」




「先輩…?」




「俺、本気だから。朱里のこと、好きだから」





そう言うと先輩は、


手を離し。





「悪ぃ、待たせた!」





大きめな声でそう言って、


走って行った。


そこには真太先輩たちがいて、


4人仲良く帰って行った。


あたしは日誌も床に落として、


呆然と立ち尽くした。


あたし、今。


告白されたの?


諒司先輩に、好きって言われた?






「嘘、」





あたしは急に涙が止まって、


驚きしか表現出来ないでいた。


だってあの、諒司先輩が。


あたしを、好き?






「信じられない、んだけど」





あたしはそこから何も考えられなくなって、


落ちた日誌を拾って職員室に向かった。


頭の中は真っ白。


担任に小言を言われているようだけど、


何も耳にも頭にも入って来ない。







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